Vol.17
医療法人 かわかみ外科・整形外科クリニック  
http://www.kawakami-clinic.com/

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【なるほどコラム】傷の新しい管理方法

 子供の頃、転んで膝小僧を擦りむくと、「なめっとけば、治る。」
「乾かしなさい。」と言われたものでした。

 でも、最近は違うんです。傷は湿らせて治すんです。

『モイスト ヒーリング』と言います。英語で書くと、Moist Healingです。
モイストは、よく、化粧品のコマーシャルでモイスチャーと言われている
"あれ"と同じです。水分、という意味です。

 ヒーリングはヒーリング・ミュージックの『ヒーリング』です。
「癒し」なんて言われておりますが、医学的には『治癒』という意味です。

1962年、イギリスのDr. George Winterにより、提唱された概念で、
『創傷は乾かさず、適度な湿潤環境を保つことで早期治癒する』という
ものです。

 わかりやすい例としては、細胞培養が挙げられます。
最近はバイオテクノロジーの進歩で、ニュース等でも、シャーレで細胞が
培養されているのをよく見かけるようになりました。

あれ、湿っていますよね。乾いていたら、細胞はすぐ死んでしまいます。
同じなのです。
創の治癒も、欠損部位があれば、肉芽が増成してふさぎ、皮膚が周囲から
徐々に覆い、治るんです。培養と同じです。

 ただ、以前は、湿潤環境が良い、とわかっていても、それをうまく実現
出来ませんでした。しかし、今は比較的安価な創傷被覆材が各メーカーか
ら発売されています。人工『かさぶた』です。

考えてみると、あのかさぶた(医学用語では、『痂皮』と言います)、
の下の環境が、創傷治癒にとても良かったのです。

 『アルミホイル法』という治療方法があります。

主に、指先の欠損に用います。爪半分位の欠損であれば、8割位は回復し
ます。

具体的にはこうです。

まず、アルミホイルで、指サックを作ります。丁度、指一本分くらいです。
欠損部位にはイソジンゲル(消毒薬のイソジンをゲル状にしたもの)を
たっぷりつけます。
アルミホイルの指サックをかぶせます。再診は一週間後です。

一週間洗えないので、再診時にアルミホイルを外すと、診察室には香ばし
い香りが漂います(^^;

古いイソジンゲルをふき取り、前回と同様のことを繰り返します。
1~2ヶ月で、指尖部が再生してゆきます。

15年程前、研修医だった頃、初めてこれを先輩に教えてもらった時は、
非常に不思議でした。

“どうして感染しないんだろう”、“なぜ、再生するんだろう”。

でも、うまくいくんです。

 この話の派生になりますが、最近は傷の消毒も疑問視されています。
消毒薬が細胞新生を妨げる、と言われているからです。最も、これは随分
昔から、医師の間では常識で、皮膚に覆われていない創(例えば床ずれの
ようなもの)では、以前から消毒していません。

ここから、普通の擦り傷では、消毒せずに被覆材で覆う、という治療法が
徐々に主流になりつつあります。

もちろん、傷は水で洗って、きれいにします。

 いかがでしょう。

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