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【なるほどコラム】閉塞性動脈硬化症 その2
今日は治療についてです。動脈硬化を背景にした、血管の狭窄が原因で
すので、自然に良くなる、ということはまずないでしょう。
もちろん、調子の良い日もあれば、悪い日もあるでしょうが。
【保存的治療】
まず初めに行われるのは、いわゆる“血液サラサラ”の薬です。多少狭
くても、なんとか血液を行き渡らせよう、というわけです。
このサラサラのレベルは、よくテレビやラジオの健康番組でやっているよ
うな“タマネギ食べて、血液サラサラ”、とは全く違います。
もちろん、使用する薬によって違いがあるのは当然です。
ここで問題になるのは、「血液そのものが、固まりにくくなってしまう」、
という点です。万が一交通事故にあった場合は、出血多量、なんてことが
起こりやすくはなります。
ただ、実際にこういった薬が原因で死亡したり、重大な障害が、というの
はあまり聞いたことがありません。
この場合、もし手術となった際には、その薬の効果がなくなるまで休薬
とし、術後に再開、というのが一般的です。緊急で手術が必要になったと
き(例えば腸管穿孔)は、血液が固まりにくいのでやはり問題となります。
キレート剤があるものは、それを使えばよいので、まず安全です。ワー
ファリン、というお薬を服用している方は、納豆を禁止されます。納豆に
含まれる、ビタミンKが、ワーファリンを無力化してしまうからです。これ
を逆手にとって、ビタミンKを注射してしまえばよいのです。
その他には、神経からアプローチする方法があります。腰部硬膜外ブロッ
クという方法です。
背骨の中の神経を包む、硬膜という堅い膜があるのですが、その膜の外側に
麻酔薬を注入するのです。一時的よりもポンプを使って持続的に注入する方
が効果的です。これにより、下肢の血管が拡張するのです。
この方法が効果的な場合、あるいは不十分な場合、更に進めて、腰部交感
神経節ブロックという方法があります。腰の神経節を神経破壊薬や高周波で
焼いてしまう方法です。手術で切除することもあります。
これら神経からのアプローチは、次に述べる、手術の前段階として行われ
ることがよくあります。
人工血管でバイパスしたいが、足の先の方の血管が細すぎて、つないでも、
すぐ詰まってしまうことが予想される場合です。
【手術的治療】
最も一般的なのは、人工血管を用いたバイパス術でしょう。方法は2通りで
す。解剖学的血行再建術と呼ばれる、もともと動脈が通っていた場所を通す方
法と、非解剖学的血行再建術と呼ばれる、全く別の通り道を造る方法です。
非解剖学的血行再建術では、例えば、腋窩動脈(腋の下です)から、大腿
動脈(ふとももです)まで、なんてのもあります。
手術とは言えないかも知れませんが、メタリック・ステントを用いる方法
があります。
これは、血管の狭い部位を風船等で拡げておいて、そのままではまた狭くなっ
てしまうので、ステントを留置することで、内径を維持する、というもので
す。
この方法は、心臓の動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)に対して広く行われて
います。細く折り畳まれたステントが、血管内で拡がって、管状の構造物に
なるのを初めて見たときには、けっこう感動しました。
侵襲が少ないため、うまく行けば良い方法ですが、ステントがずれたり、
再狭窄が起きたりと万全ではありません。それでも手術に比べると低侵襲の
ため、徐々に適応を拡げている施設が多いようです。
【最新の治療】
自分の骨髄細胞を移植して、血管の再生を試みる治療が行われています。
確か以前、NHKのサイエンスZEROという番組で取り上げられていたので、御存
知の方も多いと思います。
2005年(今年です)の6月に行われた日本血管外科学会でもいくつか報告
がありました。まだ大学病院クラスの所でしか治療できませんが、少なくと
も症状改善には有効だ、との報告が多いようです。
再生する血管はやはり細く、前回述べたAPIの改善にまでは至らないようで
す。しかし、痛みや潰瘍などの症状が改善するなら、すばらしいと思います。
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2005(c)Kawakami Surgery and Orthopedics Clinic.
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